本多用水 知られざる物語

【第6回】 時代の流れと共に ~用水の維持管理と近代化の波~

国分寺を潤した命の水路 – 本多用水 知られざる物語

【第6回】 時代の流れと共に ~用水の維持管理と近代化の波~

前回は、幾多の困難を乗り越えて本多用水がついに完成し、国分寺村に計り知れない恩恵をもたらした歓喜の瞬間をお伝えしました。水が大地を潤し、人々の暮らしは豊かになりました。しかし、物語はここで終わりではありません。完成した用水路は、まるで生き物のように、絶え間ない手入れと時代の変化の影響を受けながら、その後の長い年月を流れ続けていくことになります。今回は、その恵みを未来へ繋ぐための人々の努力と、近代化という大きな波の中で本多用水が辿った変遷の歴史を追います。

恵みを守る、地道な努力 ~維持管理の重要性~

用水路は、一度作れば永遠に機能し続けるわけではありません。自然の力は、常に水路を元の姿に戻そうとします。

  • 土砂の堆積: 上流から流れてくる土砂が水路の底に溜まれば、水の流れは滞ってしまいます。
  • 雑草の繁茂: 水路脇や水中に生い茂る雑草は、水の流れを妨げるだけでなく、水路の壁を傷める原因にもなります。
  • 水路の損壊: 大雨による増水や、経年劣化によって、水路の土手や壁が崩れることもあります。

これらの問題を放置すれば、せっかく開削した用水路も、たちまちその機能を失ってしまいます。そのため、本多用水の恵みを享受する村人たちにとって、その維持管理は極めて重要かつ継続的な課題でした。

定期的に行われたであろう主な作業は、水路の底に溜まった泥や土砂を取り除く**「泥浚(どろさら)い」「川掃除」、そして雑草の刈り取りです。これらは、用水を利用する村人たちが共同で行う「普請(ぶしん)」**と呼ばれる労働奉仕によって担われていたと考えられます。また、水路の補修や、取水口、水門の管理、そして各水田へ公平に水を分配するためのルール作りと調整も欠かせませんでした。もしかしたら、用水を利用する村々で「水利組合」のような組織が作られ、費用負担や作業分担のルールを定め、協力して用水を守っていたのかもしれません。地道で骨の折れる作業でしたが、それは自分たちの生活を守り、村の共同体を維持していくための大切な営みだったのです。

近代化の波と役割の変化

江戸時代が終わり、明治、大正、昭和へと時代が移り変わる中で、日本社会は大きな変貌を遂げます。その波は、国分寺村と本多用水にも様々な影響を与えました。

  • 農業技術の変化: 明治以降、農業技術も少しずつ近代化していきます。ポンプなどの動力を使って水を汲み上げる技術が普及すると、場所によっては用水路への依存度が低下していった可能性もあります。
  • 都市化の進展: 特に戦後、東京のベッドタウンとして国分寺周辺の都市化が急速に進展します。かつて水田や畑が広がっていた土地は、次々と宅地に変わり、道路が整備されていきました。これにより、本多用水の主な役割であった農業用水としての需要は大幅に減少していきました。
  • 水質汚濁の問題: 都市化は、同時に生活排水の増加という問題も引き起こしました。家庭からの排水が用水路に流れ込むようになり、かつて清らかだった水の流れは次第に失われ、水質が悪化していきました。これは、衛生上の問題だけでなく、用水路の景観や存在意義にも影響を与えました。

姿を変える用水路 ~暗渠化の時代へ~

農業用水としての役割が薄れ、水質汚濁も進み、さらに都市開発(道路の拡幅や宅地造成など)の都合も相まって、本多用水は次第にその姿を変えていくことになります。多くの区間がコンクリートの蓋で覆われ、あるいは完全に地中に埋められる**「暗渠(あんきょ)」**化が進められていったのです。

暗渠化は、衛生問題を解決し、土地利用の効率を高めるという側面がありましたが、同時に、人々の暮らしの中にあった用水路の存在を、日常の風景から消し去っていくことでもありました。かつて村の生命線であった水の流れは、人々の目に見えない場所へと追いやられていったのです。

しかし、本多用水の歴史と価値が、完全に忘れ去られたわけではありませんでした。時代の流れの中で姿を変えながらも、その記憶は地域に残り、新たな形で私たちに語りかけようとしています。

(第7回へつづく)


【第7回予告】 農業用水としての役割を終え、多くが暗渠となった本多用水。しかし、そのすべてが失われたわけではありません。次回は、現代において本多用水がどのような姿で残され、私たちに何を伝えているのかを探ります。史跡としての価値、緑道としての新たな役割、そして今も水の流れを見ることができる貴重な場所など、現代に息づく本多用水の姿をご紹介します。

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